秋になり、わたしが時々ウォーキングに出かける近所の裏山も色づいてきていた。
標高300メートルほどの、お椀をひっくり返したような小さな山に、黄色、オレンジ色、燃えるような赤が、パッチワークのように散らばっている。
よく晴れて、空が青い。わたしは鼻歌を歌いながら歩いた。すれ違う人たちと、良い天気ですね、とか、きれいな紅葉ですねと言葉を交わす。
頂上で大きく伸びをした。
少し下ったところに見える真っ赤な葉のナナカマドがきれいだったから、思わず近付いた。
突然、ナナカマドの葉の色とそっくりな、赤い髪をした婦人が目の前に現れた。
「ナナカマド、今年もきれいね」
彼女はわたしに話しかけてきた。
「そうですね。あなたの髪の色も、ナナカマドに負けないくらいきれいです」
「ここにずっと立ち続けてると、自然と同じ色に染まってくるのよ」
「あ、そうなんですね。すごいですね」
こんなところで、昼も夜もひたすら立っているなんてあり得ない。冗談なんだろう。
「ナナカマドは、どうしてナナカマドいう名前か、ご存じかしら」
「7回かまどに入れても燃え尽きないことから、名前がついたんですよね」
勤め先の同僚からナナカマドの名前の由来を聞いたことがある。
「そうよ。時期がくれば、自然に葉が枯れて死んだようになってしまう。
それなのに誰がそんなひどいことをしたんでしょうね」
彼女の声が震えている。
わたしはどう返事をしていいのかわからず、そろそろ行きますと言い、歩きだした。
「7回かまどに入れられても生きていられるなんて、自慢できるよね」
彼女の声が後ろからした。振り返り、そうですねと言おうとしたら、もう彼女はいなかった。
枝から落ちそうなナナカマドの葉を一枚持ち帰った。
家に帰ると小皿に水を張って浮かべ、テーブルの上にかざった。
鮮やかな赤を見ていると、朝の眠気が吹き飛ぶ。
週末、わたしは勤め先のビルの階段を、もうすぐ降りきるというところで、足を滑らせて踏み外してしまった。
翌日が休日だと思うとうれしくて、階段を一段ずつ飛ばし降りしたのだ。
病院へ行くと足の甲が骨折していた。ギブスをされて松葉づえをつくことになった。
松葉づえの歩行にはなかなか慣れず、転びそうになることがある。
周りの人に誤ってぶつかりそうで、気が気でなかった。
普通に歩けることが、どれだけありがたいか、身にしみる。
わたしは持ち帰ったナナカマドの葉を本の間にはさんでしおりにした。
骨を折ってへこたれているわたしに力を下さいと、何となくしおりに唱えてみた。
7回かまどに入れられても生きていられるなんて、ナナカマドには自慢できる生命力がある。
山にいた婦人も七回死んで生まれ変わり、生き続けてたんだ、きっと。
同じ場所に立ち続け、ひっそりと生きるナナカマドからエールをもらった。
作 むね 沙樹 編集とイラスト ばさまむーちょ
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