朝目覚めると、脱いだままのスカートやブラウス、取り込んだきりの洗濯物が、床の上に散乱しているのが目に入った。
ティシュの空き箱、コンビニの袋……。
休みの今日は朝から片付けをしようと決めたのに、見事なまでの汚部屋を改めて目の当たりにして、やる気を失った。
静かな場所で、前から読みたいと思っていた本を数ページだけでも読めば、気分がリフレッシュできて、やる気にもなるはず。
わたしは朝食をすませて、近くの公園に行った。
誰もいない木陰のベンチに座って読み始めた。
10分くらいして、子供たちが公園に入ってきた。わたしの座るベンチのまわりで、大声で笑いしゃべりながら、追いかけっこを始めた。わたしはがっかりして本を閉じた。
すぐ部屋に帰る気になれず、近くに水たまりがあったから、何気なくしゃがんだ。
割と大きなマイマイが、水たまりのそばで気持ちよさそうにしている。
「あなたは家がくっついてて、体も入るくらいなんだから、中はきれいにかたづいてるんでしょうね。
あなたの家みたいなところで、くつろぎたいな」
「中は、水もない。でも手足をのばしてゆっくりできる場所くらいは、あるよ。
それでよければ、来てもいいよ〜」
「行きたい。そこで本を読むことができたら、それだけでいい」
無理だとわかっていながら、言ってみた。
「わたしのドームの中には、やわらかいところがないから、ほら、そばにヤマブキの葉がある。3枚くらいちぎってクッションのかわりにすればいい」
マイマイの目が指す方向を見ると、花だんがあった。
ヤマブキの小さな葉が、茎からたくさん生えている。
マイマイにいわれたとおり、わたしは3枚ちぎった。
せまいトンネルを通り抜けると、そこはドーム状の空間だ。カラの中に入れたんだ。
中は5段の層になっている。
壁には縦長の石が積み上げられた層と、横長のが積み上げられた層が交互にあった。
本を読むにはちょうど良い光が、上から差してくる。
座って足を投げ出して壁にもたれたが、背中もお尻も痛い。
ヤマブキの葉をクッションにして背中とお尻に当てた。
子供の声は、もう聞こえない。
わたしはどんどん本を読み進み、心地よくなってきて、ねむたくなった。
ヤマブキの葉が一枚残っていたから、わたしはふとんがわりにして横になり、ねむってしまった。
「いつまでいるつもりなんだろ。ずっとこのドームにいるなんて、言わないだろうな」
マイマイの心細い声がカラの中で響いていた。
「あー、かたつむりがこんなところに。遊ぼう」
子供の声がすぐそばでしたと思うと、わたしはころげまわって目がさめた。
マイマイの壁がくずれそうだ。
「いたずらをやめさせるから、出して」
わたしはよろめきながらも、なんとか立ちあがって言った。
わたしは水たまりのそばに立っていた。
「ダメよ、かたつむりにいたずらしちゃ」
わたしが注意すると、マイマイのカラをつかんで、ふっていた男の子は、水たまりの中に投げて走り去った。
「イテテ。でも助かったよ、ありがとう。これで助けられるの2度目なんだ。
人間って、やさしいね。ヤマブキの葉のかげに、置いてくれない?」
わたしは花だんの、ヤマブキの生えぎわの土の上にマイマイを置いた。
マイマイはお礼をするみたいに、両目を下に動かした。
わたしのほうこそ、ありがとう。
マイマイのカラの中で、ゆっくりできた。
よし部屋のかたづけをしよう。わたしは公園を出て、歩き始めた。
作 むね沙樹 編集とイラスト ばさまむーちょ
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